海水の急速な酸性化は、動植物にすみかを提供するサンゴ礁を破壊するほか、ムールガイやカキなどが自らを保護する貝殻を形成しにくくします。サケなどの魚の餌となる微生物の成長を阻害する可能性もあります。
海の酸性度は、大気に放出されるCO2が増えると上がります。研究チームによると、産業革命以前は火山の噴火などでCO2が自然発生的に放出される時期が定期的に訪れ、地球の気温が押し上げられていました。大気中のCO2の濃度は、産業革命が始まった当初は280ppmでしたが、化石燃料を燃やすといった人間活動により、現在では392ppmにまで上昇しているそうです。
研究チームは5600万年前の約5000年間にわたる温暖期に着目しました。この時期は活発な火山活動といった要因によって温暖だった公算が大きいですが、過去3億年間ではこの時期が最も現在の地球の状況に近いといえます。チームによると、5600万年前の5000年間で、大気中のCO2の量は2倍に増え、平均気温はカ氏で10.8度(セ氏で6度)上昇しました。また海洋の酸性度はこの間、pHスケール(14ポイント)で0.4程度上がりました。
ホーニッシュ氏は、当時の温暖化と酸性化はこのように急速だったが、5000年という長い間の出来事であり、わずか150年ほど前に始まった産業革命以降の地球の状況と比較すると、その速度はむしろ遅いといえると指摘しました。
5600万年前の5000年間の温暖化期は「温暖化極大期(PETM)」として知られ、恐竜絶滅から約900万年後にあたります。酸性度は5000年間でpHスケールで0.4上がったのだから、100年ごとでは平均して約0.008と計算できます。
ホーニッシュ氏ら研究チームによれば、当時、多くのサンゴ礁が消滅し、海底に住んでいた単細胞生物の多くも消滅しました。この結果、食の連鎖の上位にあった動物や植物も同様に死滅したとみられます。これに対して20世紀の100年間の地球では、海洋はpHスケールで0.1酸性度が高くなっており、2100年までに0.2ないし0.3程度さらに酸性度が進むと予測されます。また国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」によれば、今世紀に世界の気温はカ氏で3.2ないし7.0度(セ氏で1.8ないし4.0度)上昇する可能性があると予測されています。
ホーニッシュ氏は「PETMの(100年ごとの酸性度)変化率が現代よりも小さかったし、今後も大きなエコシステム上の変化が予想される」とし、「それだけに、海洋で今後何が起きるか懸念せざるを得ない」と述べているそうです。
(時事ドットコム)
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